ダウン症候群は、知的発達の遅れ(知的障害)を伴う染色体疾患である。ダウン症候群においては、リテラシー(読み書き能力)を育てることの有効性が指摘され、その習得が言語機能、中でも発話能力や構音を改善させる可能性や、言語発達支援における効果的なツールとなることが論じられてきた。また、リテラシーを育てることは、言語的な能力の促進だけでなく、読書などの文化的な世界への接点、作文や手紙、日記など自分自身を表現することや、他者とのつながりを持つための手段となることもあり、ダウン症者本人の生活の質を高めることにもつながると考えられる。リテラシーは、読む能力と書く能力の総称であるが、ダウン症候群の書記リテラシー、中でもあるまとまりをもつテキストを産出するような作文表現に関する特徴や発達に関する報告は非常に限定的である。支援方法の立案するためには、評価法を精査した上でダウン症候群の作文表現の発達を明らかにすることが求められる。 平成22年度は、ダウン症児・者の作文表現に関する研究動向についての基礎的研究として、関連文献・資料の収集、研究打ち合わせを行うとともに、事例研究の準備として、(1)事例を選定し、背景情報等収集する、(2)支援プログラムの開発を検討することを中心に行った。事例の背景情報の収集においては、認知発達、言語発達を中心に収集した。また、支援プログラムの開発の検討のため、事例がこれまでに作成した作文を収集し、作文表現の発達的変化を検討している。収集した作文は、小学校1年生から中学校3年生までの9年間にわたっており、発達的変化を見いだすことは、支援プログラム立案の一助となると考えられる。
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