研究概要 |
本研究は,聴覚障害児が在籍する通常学級において,1、「音声認識字幕システム」の試験運用を行い,彼らの音声認識字幕の読みの特性に焦点をあてた分析をもとに呈示方法の改良を検討する,2、字幕ログを利用した口語表現学習教材を作成し,聴覚障害児が「音声認識字幕システム」による情報保障を通して,話しことばの表現を学びながら豊かな柔軟性のある日本語運用力を身につけさせることを目的としている。 21年度は,iPhoneを利用したモバイル型遠隔情報保障(文字入力はパソコン要約筆記による)の運用を行い,その利用経験者を中心としてインテグレーション環境にある聴覚障害児の情報保障について実態調査を行った。中野他(2008)により,成人聴覚障害者において字幕呈示は1行あたりの文字数は少ない方が好まれることが明らかになっているが,画面が比較的小さいiPhoneにおいても読みづらいという報告はなかった。むしろ,「ノートを取りながら話が聞ける」「視線の延長線上に話者の顔があるようiPhoneを持つことで先生や友達の顔を見ながら話が聞ける」「活動を伴う授業や屋外の授業でも情報保障が受けられる」と好評であった。 聴覚障害児の日本語の力に関しては非常に個人差が大きいが,高い日本語力を有する聴覚障害児では出来うる限り詳細な情報をリアルタイムに求める一方で,日本語に苦手意識がある聴覚障害児では,詳細な情報を必要としない場面において,概要を理解できる程度に要約してよいとする意見もあった。ただし,これらのニーズはそれぞれの聴覚障害児の実際の日本語力と比例して異なるのではなく,日本語に対する苦手意識の強さが影響しているようにも見受けられた。そのため,字幕ログを利用して日本語の力を磨いていけるような学習教材の開発は非常に重要であると思われる。
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