本研究は、20世紀初頭の通学制聾学校がどのように発展したのかを明らかにするために、その発展に大きな役割を果たした口話法がどのように伝統的な手話法に取って代わったのかについて解明することを目的とした四力年の研究である。第一年目の本年度は、第一に、ミルウォーキー市通学制聾学校における口話法の転換に関する資料収集、第二に、20世紀初頭のイリノイ州立寄宿制聾学校の教育実態の解明が、主な研究課題であった。 20世紀初頭のイリノイ州立寄宿制聾学校の教育実態について明らかになったことは、19世紀末までは長年施設長を務めた人物の教育理念に基づき、寄宿制学校としては早い時期に口話法を導入したことが分かった。しかしながら、19世紀末に施設長が代わると、口話法の指導対象は拡大していく。この時期は、米国全体で口話法が拡大していく時期であり、19世紀末とは異なった理念によって、イリノイ州立寄宿制聾学校においても口話法が位置づけられるようになったことが示唆された。この点については、今後シカゴ校との比較検討を実施する予定である。 一方、これまでの通学制聾学校に関する先行研究の知見と課題を整理するために、その研究視点の変遷と背景を検討する研究論文を執筆・投稿し、3月に公刊された。この研究論文の成果としては、日米両国ともに、その時代ごとの教育的、社会的状況に由来する研究動機に基づき研究がなされていることが分かったが、近年、インクルージョンが進展する中で、特殊教育、とりわけ特殊学級の再評価が必要になってきた背景から、通学制聾学校史研究が行われるようになっていることが明らかとなった。このことは、本研究には現代的な意義があることを支持するといえる。
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