研究課題/領域番号 |
21730724
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
木村 素子 宮崎大学, 教育文化学部, 講師 (60452918)
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キーワード | 特別支援教育学 / 聴覚障害教育学 / 通学制聾学校 / 口話法 / アメリカ合衆国 |
研究概要 |
本研究は、どのように通学制聾学校の教育が寄宿制聾学校という分離的環境における教育から発展したのかを、その発展に大きな役割を果たした口話法に着目し、明らかにすることを目的としている。平成23年度の研究計画は、(一)シカゴ通学制聾学校における口話法の展開とその教育的・社会的意義の検討、(二)ミルウォーキー通学制聾学校史およびウィスコンシン州立聾唖院史の検討の二つの研究課題に取り組むことであった。 (二)については史資料の制約が大きいため、来年度以降に複数都市の比較研究を通して取り扱うこととし、今年度は(一)の課題を優先的に行った。(一)については、不就学の一因として問題となっていた貧困層聾唖児が、イリノイ州においてどのように教育の機会を提供されようとしたのか、とりわけ公立学校制度に位置づけられた通学制聾学校という新しい形態の聾学校によって、どのように貧困層聾唖児の不就学問題は改善されたのかを検討することを通して、イリノイ州教育行政及び慈善行政、さらにシカゴ市教育委員会がシカゴ通学制聾学校に対してどのような社会的意義を見出していたのかを明らかにした。その結果、通学制聾学校が、寄宿制聾学校では対応しきれなかった貧困層の聾唖児を就学促進したかわりに、口話法導入後に家庭における教育力の乏しい貧困層の聾唖児は学業不振に陥りやすくなることが示唆された。つまり、通学制聾学校は貧困層の就学促進を形式的には促進したが、より親の協力と家庭教育を要求する口話法の導入で、学力の格差を発生させた可能性があることが明らかとなった。口話法は中産層の市民や親の支持を集めた一方で、学力格差という新たな教育課題を生むという役割を担った可能性があることが分かったが、このような知見はこれまで指摘されていない点で意義がある。来年度は、口話法以外に、生徒の知的能力や進級制度等の要因が学力に影響を与えたかを更に検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の通学制聾学校における口話法の教育的・社会的意義について、社会的側面はイリノイ州教育行政と社会事業行政の通学制聾学校に対する期待について、教育的側面はシカゴ市における口話法と学業不振の関係について明らかにすることができ、最終年度に更に検討を深めることによって、研究目的が達成できることが見込まれるため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、シカゴとミルウォーキーを対象都市としている。シカゴについては研究目的を明らかにするための十分な史資料があるため、引き続き、史資料の読解と分析を進めるとともに、関連研究者との定例研究協議を行ってより多面的な検討を加えていく。一方、ミルウォーキーについては史資料にやや制約があるが、先行研究や二次資料の活用のウエイトを増やし、単独事例ではなく類似する他都市との比較研究に研究計画の微修正を行うことによって、その資料的制約を克服すれば、当初の研究目的が達成されることが見込める。
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