研究概要 |
平成21年度は,コクセター配置の原始微分に関する研究を行った.コクセター配置はコクセター群およびその不変式論と密接にかかわっており,齋藤恭司氏の原始微分の発見をもとに,その対数的ベクトル場の性質は,自由性やホッジ分解など,様々な側面から調べられてきた.これらは,近年盛んに研究がすすめられている,数理物理学におけるフロベニウス多様体構造とも深くかかわっており,重要性が増している研究対象である. この原始微分の存在は,コクセター群が既約な場合には,不変式環を生成する基本不変式に一つ明らかな高次の項が存在する,というChevalleyの定理に強く立脚していた.Chevalleyの定理のこの性質は,既約なコクセター群に対してのみ成立しており,既約でない場合については不変式論および,関連するコクセター配置の理論も存在していなかった.そこで私は,寺尾宏明氏との共同研究として,既約とは限らないコクセター配置に対して原始微分の概念を導入,定式化し,その存在を示した.すなわちたとえば,A_1型コクセター群の直積は,対応する全ての基本不変式の次数は2であるが,我々の結果を用いればこれらのうちで一つ特別なものを選び,それに対応する微分として原始微分が構成できることになる.これにより既約でない場合であってもある種の不変式論を用いることができ,またこの新しい原始微分を用いて従来のコクセター配置の理論,すなわち自由性とその基底の具体的な構成などを行った.さらに齋藤のホッジフィルトレーションを一般化した原始フィルトレーションを構成することに成功した.本結果はaxXiv : 0910.2506として公開しており,現在学術雑誌へ投稿中である.
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