本年度は、多重ゼータ関数およびゼータ正規化積に関連する以下の二つの研究を行った。 1.Schur関数に付随する多変数多重ゼータ関数の研究: 現在盛んに研究されている多重ゼータ関数だが、それは、考える多重和において等号を付けるか付けないかの大きく分けて2通りのものが存在する。これら2つを統一的に扱うべく、報告者は、Schur関数が半標準盤に渡る和で定義されることを踏まえ、Schur関数(分割)に付随する多重ゼータ関数を導入し、その基本的な性質(例えば収束性など)を研究した。それは、分割が縦一列のときは等号なしの、横一列のときは等号付きの多重ゼータ関数を与える。また、分割が小さい全ての場合に特殊値を具体的に計算し、それらの間の関係についていくつかの予想を立てることができた。特に、Schur関数の場合と類似した組合せ論的な性質を満たすであろうことも確認できたが、現在のところまだ証明には至っていない。 2.離散トーラスに付随するラプラシアンのスペクトルゼータ関数および行列式の研究: 報告者は以前、トーラスに対するラプラシアンのスペクトルゼータ関数、Selbergゼータ関数、および行列式(ゼータ正規化積)の研究を行ったが、本年度は、その離散類似である離散トーラス(有限無向グラフ)に対して同様の研究を行った。熱核の一意性からスペクトルゼータ関数は第一種変形Besse1関数を用いて書けるのだが、今回その級数表示を用いて詳細に計算することで、一般次元の場合のスペクトルゼータ関数がLauricellaの多変数超幾何関数を用いて書けることが分かった。特に、ここで得られた表示とGaussの超幾何関数のある二次の変換公式を用いれば、1次元の場合の既存の表示がより簡明に導出される。また、2次元の場合は上記Lauricellaの多変数超幾関数が一般超幾何関数に落ちることも分かり、2次元と3次元以上の場合の問題の難しさの違いもこの意味で明らかとなった。
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