研究概要 |
本研究では,3次元多様体や結び目の不変量を,特に四面体分割に基づき組合せ的に解析することをスローガンにしている.本年度は,閉3次元多様体内の絡み目に対し,その四面体分割を用いて定義される状態和型の量子不変量である色つきトゥラエフ-ビロ不変量に注目した.この不変量は,閉3次元多様体内の結び目に対し,3以上の整数rを与えるごとに,実数の値をとる量子不変量である.理論的には,この整数rはある量子群の既約表現の次元に付随して与えられる.本年度は,この不変量のrを大きくしていったときの値の漸近的なふるまいを数値実験により調べた.具体的には,前年度より考察を進めていたレンズ空間内のトーラス結び目に対し,この不変量の位相的場の理論的な性質に注目し,行列計算により計算するアルゴリズムを進化させ,数式処理システムMathematicaを用いて,上の考察を実行した.レンズ空間内のトーラス結び目は,補空間に自然にザイフェルトファイバー構造が入ることで特徴づけられる特殊なクラスの結び目である.トーラス結び目に対しては,上のような極限は,漸近的に0に近づいていくことが確かめられた.補空間に完備な双曲構造を許容する結び目である双曲的結び目に対して,この不変量の漸近挙動がどのような振る舞いをするかという問いは,上記の結果と比較されるべき大変興味深い問題である. また,不変量の「有限性」の考察には,多様体に埋め込まれたハンドル体によるトレリ手術の下でのふるまいを調べることが必要である.これに関連し,多様体に埋め込まれた空間グラフやハンドル体結び目の写像類群の立場からの対称性を調べた.特に,対称性をはかる群の有限表示可能性や,空間グラフとハンドル体結び目の関係について,一般的な事実を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
四面体分割を用いて定義される3次元多様体内の結び目の量子不変量に関して,研究を開始した時点では,この計算例すらほとんど得られていない状態であった.現時点では,あるクラスの結び目に対して,その漸近的な挙動を数値実験で調べられるところまで研究が進化している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの色つきトゥラエフ-ビロ不変量の研究は,3次元多様体内の結び目の中でも,補空間にザイフェルトファイバー構造が入るものに限定されている.今後は,補空間に双曲構造を許容する結び目のクラスに対して,漸近的な挙動を研究していきたい.
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