当該年度の研究活動の成果として、一般のフックス群に対する基本領域の安定性に関する前年度までの研究の細部を詰め、その結果を論文として発表出来た事が先ず挙げられる。双曲平面に作用する離散等長群であるフックス群に対し、双曲平面内から選んだ点(仮にpとする)を中心とする基本領域を考える。これは、群作用による点pの像として得られるあらゆる点よりもpに近い点の集まりである。この基本領域の組み合わせ構造が「一般的」と呼ばれる状態ならば、中心pの微小な摂動に関し組み合わせ構造が保たれる事は、研究代表者のこれまでの研究により知られていた。更に、基本領域の中心となる点が双曲平面の無限遠境界内にある場合にも同様の結果が成り立つ事がこれまでに予想されていた。この予想に対し、専門家との前年度までの議論に基づき、その予想に対する証明を今年度は完成させる事が出来、論文として発表出来る事が確定した。これが当該年度の第一の研究成果である。 当該年度の研究活動のもう一つの柱は、双曲幾何学の記号的処理に関する研究であった。前年度から続く専門家との議論を更に深化させ、この記号的処理の圏論的な位置付けに関する雛形を創り出す事に成功した。この雛形は組み合わせ的な群の表示の類似物を圏論の表示として採用するという発想に基づいており、今後はこの表示の有用性や意味付けについて研究を進めて行く予定である。当該年度の終了までに具体的な研究成果は得られなかったが、長期的な視点に立った研究の端緒が得られた点で、この成果は今後の研究にとって重要である。
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