研究概要 |
1.コンタクトプロセスの超ブラウン運動標準測度への収束について 果樹園などの系における伝染病伝播をモデル化した「コンタクトプロセス」の臨界現象を研究した.時空間n+1点相関関数の高次元スケーリング極限が,超ブラウン運動標準測度のn次モーメント測度に弱収束することをレース展開の手法で証明した.オランダのvan der Hofstad教授との共著論文がElectronic Journal of Probabilityに掲載された. 2.長距離2体相互作用の導入による臨界現象への影響について 臨界現象を示す様々な統計力学モデルを考え,それらを構成する2体相互作用係数が冪的に減衰する場合の影響を研究した.浸透過程を表わす代表的なモデルである「有向パーコレーション」や線形高分子の統計力学モデルである「自己回避歩行」の2点関数(例えば,自己回避歩行の2点関数は空間の異なる2点を繋ぐ「高分子」の母関数のこと)を考え,その回転半径の漸近挙動を高次元において詳しく調べた.台湾のChen教授との共著論文がThe Annals of Probabilityに掲載された. また,ランダム媒質を記述する「パーコレーション」や磁性体の統計力学モデルとして有名な「イジング模型」の2点関数(例えば,イジング模型の2点関数は空間の異なる2点に置かれたスピンたちの「そろい易さ」を表わす量のこと)を考え,相転移点直上における2点関数の漸近挙動をChen教授と共に研究している.途中経過を國立臺灣大學でのセミナーと京都大学での確率論シンポジウムで発表した. 3.超臨界相パーコレーションのレース展開について 現在のところ,レース展開の手法は高次元臨界現象を厳密に解析する殆ど唯一の手段となっている.しかし従来のレース展開では,「超臨界相」(パーコレーションでは「高密度相」,イジング模型では「低温相」に相当)側から近付いた臨界現象を「直接」解析することはできていない.九州大学の原隆教授と共に,レース展開の手法を超臨界相パーコレーションに適用する試みをしている.レース展開の解析に必要な新しい相関不等式を開発すると共に,我々に欠落している超臨界相の描像を模索している段階である.
|