研究概要 |
高次元における平均場臨界現象を数学的に厳密に証明することができる数少ない手法の一つが「レース展開」である.我々はレース展開の適用範囲を広げるべく,平成23年度は以下3つの課題を中心的に研究し,より深い臨界現象の理解を獲得することを目指した. (1)長距離2体相互作用の導入による臨界現象への影響について. Fu-Jen Catholic UniversityのChen教授との共同研究.冪的に減衰する長距離2体相互作用を導入すると,その冪指数の値に依存して,臨界現象が「退化する」(すなわち「平均場的になる」)限界の次元が下がり,臨界2点関数のスケーリング極限も「ブラウン運動」から「安定過程」へと移行するだろうと予想されている.これを証明したい.現在までに相当の傍証が集まっていて,近い将来結実するものと考えている. (2)超臨界相パーコレーションのレース展開について. 九州大学の原隆教授との共同研究.これまでのレース展開の手法では,「超臨界相」側から見た臨界現象を解析することができなかった.様々な技術的問題があることが分かってきたが,それらは全て,我々が未だに「真の超臨界相の描像」を獲得していないことに因るものと考えられる.これは非常に重要な問題で,現在も共同研究を継続中である. (3)ランダムな環境下の(有向)パーコレーションの臨界現象について. これまでのレース展開の手法は,並進対称性のある「均質な」時空間における臨界現象の解析には非常に強力であった.これを「ランダムな環境」にまで拡張したい.これは本質的に「二重のランダムネス」を扱う重要な問題である.我々は比較的扱い易い「ランダムな環境下での有向ポリマー」を最初の題材として選び,二重のランダムネスに付随する問題を勉強し始めた段階である.
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