統計力学の観点からの、フラクタルグラフの研究を行っている。当該年度は特にシェルピンスキーガスケットグラフにおけるランダムな全域木の構成を行い、その統計的性質について調べた。全域木をこのフラクタルで考える利点は、ほとんどの統計量が厳密に計算できる点である。全域木の確率分布は、一般に一様分布によるもの(uniform spanning tree、UST)と最小全域木(minimal spanning tree、MST)が特に重要である。本研究ではまずUSTについて確率測度およびスケール極限を構成し、さらにUSTとの一般的な対応で自然に現れるLoop-Erased Random Walk (LERW)の指数を計算した。このLERWの指数はシェルピンスキーガスケット上で従来から構成されていたRandom WalkやSelf-Avoiding Walkなどの値とは異なっており、d次元格子の場合と同様にシェルピンスキーガスケットでもこの3つの確率過程が違うクラスに属することが確認された。一方、MSTはパーコレーションモデルと深い関係にある。シェルピンスキーガスケットでのMSTの確率測度は、USTより複雑ではあるが漸化式によって記述できることがわかり、その式を具体的に求め、全域木から定まるSAWの指数の値を具体的に計算することが可能であると示せた。その漸化式を用いて現在計算を行っているところである。こうしたランダムな全域木は他のフラクタルグラフでも構成可能であり、USTやMSTによる特徴づけでフラクタルの新たな分類ができると考えられ、パーコレーションモデルやLERWなど関連した研究にも大きな意義があるものである。
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