研究概要 |
今年度は神戸大学の前川泰則氏と,ある種の楕円型境界値問題の研究を行った.本問題の可解性については,境界や係数に対する弱い仮定の下で様々な研究が行われてきた.その中で近年は実解析的方法により,エルミートとは限らない行列を係数とする発散形の楕円型作用素に対する境界値問題の可解性を論じる研究がAuscher, McIntosh, Rosen等により行われている.本研究では全空間または半空間で定義された,有界な係数をもつ,ある種の発散形の楕円型作用素について,対応するDirichlet-Neumann(DN)写像による分解公式を示した.またその応用として,半空間におけるDirichletおよびNeumann境界値問題をL2ベースのSobolev空間で解く方法を提案した.この方法により,Lipschitz領域上の楕円型境界値問題の可解性に対する幾つかの既存の結果に対し,別証明を与えることができた.また,エルミートではない行列を係数とする発散形の楕円型作用素に対する境界値問題の可解性についても新しい知見が得られた.これらの結果の証明には,Rellich identityとよばれるある種の積分等式(の一般化)や, 半群論をはじめとする作用素解析が重要な役割を果たす.この結果は現在,論文としてまとめており,近く専門雑誌に投稿の予定である.また,British Columbia大学(カナダ)に滞在し同大学のTai-Peng Tsai氏,Yonsei大学(韓国)のKyungkeun Kang氏と共同で,非圧縮粘性流体の運動を記述する非圧縮Navier-Stokes方程式の研究を行った.昨年度までに得られた外部問題の非斉次境界条件における初期値問題の可解性についての研究に引き続き,外力が複数の特異性を持つ場合の定常解の存在について考察を行った.
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