研究概要 |
古典的場の理論で考えられた非線形波動方程式の一種であるSkyrmeモデルとAdkins-Nappiモデルについて時間大域解の存在とその時刻無限大での漸近挙動を調べた(Geba, Rajeevとの共同研究)。これらの方程式は波動写像(シグマモデル)が空間3次元で爆発する事を回避するため考案され、全ての解が時間大域的になる事が期待されているが、波動写像と異なり非斉次かつ準線形なので偏微分方程式としての解析は遥かに難しい。我々は回転共変の対称性の下で自明解周りの時間大域的解析を行い、スケール解析から自然と思われる最小滑らかさのベゾフ空間で小さな大域解と散乱作用素を構成した。これらは漸近安定性の証明に向けての第1段階である。 2次元でのソボレフ埋蔵定理の臨界対数増大を記述する、Trudinger-Moser不等式とそれに対応する非線形波動の大域挙動について調べた(Ibrahim, Masmoudiとの共同研究)。不等式についてはMoserによる有界領域での最良不等式が有名だが全空間では成り立たない事も知られている。我々はその最良修正を見出し、非線形項に対する簡単な必要十分条件の形で示し、更にコンパクト性の破れも修正された最良非線形項に対してのみ起こる事を証明した。これを用いて、二乗指数型非線形項について基底状態ソリトンの時間周波数または質量係数に制限がつく現象について、それが起こるための必要十分条件を与え、更に係数の制限値と不等式の最良定数を対応をさせた。更に非線形クラインゴルドン方程式が質量変位により基底状態を失う場合に、本来基底状態があるはずのエネルギー準位の解の時間大域挙動を完全に決定した。 非線形波動方程式の解の時間大域挙動の分類(基底状態を若干超えるまでのエネルギー範囲における散乱、爆発、ソリトンへの分類)について、Schlag, Kriegerとの共同研究を更に進め、特にソボレフ臨界(無質量)の場合の結果を球対称で無い解にまで拡張した。証明方法は解の分解方法を含めて球対称解に対しても改良した。特に空間遠方で減衰の遅いソリトン多様体へ、通常とは異なる非直交の射影を用いる所がポイントである。 プラズマ波動を記述するザハロフ方程式系の解の大域挙動について調べた(Guoとの共同研究)。この方程式は亜音速極限で非線形シュレディンガー方程式へ移行するが、シュレディンガーと波動方程式の系になっているため、3次元で初期値問題から大域挙動を解析する事がこれまでできなかった。我々は球対称の仮定の下、エネルギー空間で小さな解が自由解へ漸近する事を証明した。
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