研究概要 |
本年度は,以下の二つの結果を得た. 1.大きなパラメータを含む特異摂動型の非線型正規型二階常微分方程式のあるクラスを設定し,そのパラメータに関する形式巾級数解のBorel総和可能性についての結果を得た(東京大学・神本晋吾氏との共同研究).この非線型常微分方程式のクラスはI型からVI型までの全てのパンルベ方程式を含んでおり,また,Borel総和可能である領域を定めるStokes曲線などの妥当性など,従来予想されていた結果に証明を与えたものとなっている.本研究によりパンルベ方程式に対する完全WKB解析の厳密な基礎理論の展開の第一歩が確立されたことになる. 2.大きなパラメータを含む特異摂動型の二階非斉次線形常微分方程式に対して構成される巾級数解のBorel総和可能性を調べた(京都大学・竹井義次氏との共同研究).この問題は大きいパラメータを含む三階線形常微分方程式のWKB解のBorel総和可能性を調べる際の「第一歩」として定式化されたものである.つまり,三階線形常微分方程式の解の対数微分はある非線型二階常微分方程式を満足する.その方程式を逐次近似で解く際の最初の方程式が二階非斉次線形常微分方程式になる. この問題を考察するにあたって(古典的に良く知られた)斉次方程式の解による非斉次方程式の解の表示式を用いた.斉次方程式の解としてWKB解を用いるが,WKB解のBorel総和可能性は良くわかってる.従って問題となるのは,そのWKB解にある指数関数をかけて得られる形式巾級数の(独立変数に関する)積分の(大きいパラメータに関する)Borel総和可能性となる.この問題に対して積分のBorel和をBorel和の積分として表わすためには,積分路を分岐させなければならないなどがわかった.このように,結果自体にくわえて,証明中に得られた知見についても興味深いものとなった. 上記2結果について現在論文作成中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ガルニエ系は,複素直線に制限すれば,4階以上の常微分方程式になるが,このような高階の常微分方程式の大きいパラメータに関するBorel総和可能性は未だ未解決の問題である.また,非線型常微分方程式の解の大きいパラメータに関する(何らかの意味での)総和可能性もまた未解決問題である.本研究を進めていくにあたってこの問題の重要性が認識できたため,現在それに注力している.
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今後の研究の推進方策 |
まず,パンルベ方程式の2パラメータ解の「総和可能性」について取り組む.非線型常微分方程式の大きいパラメータに関する「総和可能性」は,(本研究で得られた)0パラメータ解に対する結果など部分的な解決のみである.「総和可能性」の意味もはっきりさせた上で2パラメータ解の「総和可能性」を明らかにしたい.同時に線形高階常微分方程式のWKB解のBorel総和可能性についても取り組みたい.そこでは今年度得られた「分岐する積分路」が有用な役割をはたすはずである. これらの研究の基礎となるのは今年度得られた結果であるし,こうした問題が解決されるとガルニエ系の完全WKB解析についても研究が進むと考えられる.
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