研究概要 |
本研究では流体運動を記述する圧縮性Navier-Stokes方程式などを包括するような対称な双曲・放物型方程式系に対し,半空間領域における定常解の存在性と安定性についての統一的理論の構築を主な目的としている.研究代表者らはこれまでに上記方程式系に含まれる単独粘性保存則や圧縮性粘性流体の熱伝導モデルに対して,その定常解の安定性定理を示した.より具体的には,1次元半空間における熱伝導理想気体モデルに対し,流出境界条件のもとで定常解の安定性と漸近レートを算出した.一般論構築の為には具体的なモデル方程式に対する多数の検証が必要である為,本年は熱伝導圧縮性粘性流体の理想気体モデルに,境界条件として流入境界条件を課した初期値・境界値問題に対し定常解の安定性解析を行った.まず定常解の大きさが十分小さいという仮定の下で,滑らかな定常解の存在性を証明した.超音速の場合は全ての特性速度が正となる為,境界層として発生する定常解は存在し得ないが,遷音速及び亜音速の場合は境界値に条件を課すことで存在性を示すことが可能である.また遷音速の場合は一つの特性速度がゼロに縮退してしまう為,線形項を評価しただけでは存在性を示すことは出来ないが,非線形項まで評価し中心多様体定理を用いることにより証明することが出来た.さらに初期摂動が十分小さいという仮定を課すことにより,その定常解の漸近安定性を証明することに成功した.証明の手法は主にエネルギー法による.低回の基本評価の導出は,前年度に行った流出境界条件下での問題と同様の方法により可能であった.一方高回微分の評価においては特性速度の符号が反転するため密度の境界項の評価が困難であったが,質量保存則の方程式を用いて評価することにより一様なエネルギー評価を得ることに成功した.
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