昨年度に引き続き、コンパクトな概エルミート多様体上の曲線が従うある空間1次元3階非線型分散型偏微分方程式に対する初期値問題を考察した。多様体として標準的な計量を備えた実2次元球面を設定した場合、この方程式は渦糸運動に関連したある完全可積分系モデルに一致する。本研究ではこれまでこの種の分敵型写像流の方程式に対して、偏微分方程式(系)としての構造と多様体の幾何学的設定との関連に着目しながら初期値問題の解法研究を進めてきた。今年度は、昨年度までに既にまとめていた時間局所解の一意存在に関するプレプリントをその後の研究経過を踏まえて新たにまとめなおし、現在は学術雑誌に投稿中である。これは、閉じていない曲線の場合に限定しているものの、分散型方程式の局所平滑化効果を利用することにより既に公表済みの別の論文に比べて簡単で汎用性の期待される別証明を与えている。一方、昨年度の研究において多様体がコンパクトな局所エルミート対称空間である場合に初期値問題の時間大域解の存在定理を証明した。これは、方程式が非完全可積分系となるにもかかわらず解が時間大域的に延長されるような多様体の枠組みの一例を与えている。今年度はこの成果をまとめた論文を学術雑誌に発表した。さらにこの研究をきっかけに渦糸の方程式に対する可積分系理論を分散型写像流の方程式に対する幾何解析の観点から見直しを試みた。まだ十分な理解は得られていないが、この考察を継続し他の分散型写像流の方程式についての研究にも役立てていきたい。
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