平成23年度は主として以下の2点について研究活動を行った。 1.非線形偏微分方程式に現れる界面運動に関する特異極限問題について、パリ南大学のDanielle Hilhorst氏と共同研究を行った。今年度の研究では、双安定型の非線形項を持つ減衰型波動方程式(damped wave equation)においても、ある条件の下で、非線形放物型偏微分方程式の一種であるAllen-Cahn方程式と同様の界面現象が現れることを示した。より具体的には、方程式に含まれる減衰の強さを制御するパラメータを非常に大きくした場合に、解の挙動が放物型方程式と類似した傾向を示し、ある種の解の比較定理が成り立つことを示した。減衰型波動方程式では、放物型方程式と異なり、比較定理の証明において、解の初期速度を考慮する必要がある。また、空間多次元での波動方程式は、空間1次元の波動方程式とは解の性質が本質的に異なる部分がある。これらの評価が比較定理の成立の鍵となることが明らかとなった。また、これらの性質を利用して界面の形成にかかる時間の評価やその後の時間発展を解析した。 2.Allen-Cahn方程式に現れる平面波の漸近安定性に関する研究成果を論文としてまとめ、Journal of Differential Equations誌に発表した。また、日本数学会東北支部会等で口頭発表を行った。その内容は、前年度までに得た平均曲率流方程式を用いた界面運動の近似定理と、その応用として得られた平面波の漸近安定性に対する新たな十分条件に関するものである。これらの研究成果は、東京大学の俣野博氏と東京工業大学の谷口雅治氏との共同研究に基づくものである。
|