本年度は二つの内容に対して新しい結果を出すことが出来た。 まず一つ目は、昨年度から新たに行っている量子ウォークについての研究である。この研究は研究当初には予定していなかったが、凸多面体上の漸近解析学を一歩進めて離散空間上の漸近解析学の視点に立って新たに遭遇した問題である。昨年度、砂田利一教授(明治大学)との共同研究により、量子ウォークの遷移確率の様々な局所漸近公式を得ることが出来たが、凸多面体上の漸近解析学で培った手法によっていた。本年度問題としたことは、一次元量子ウォークの代数構造の探求であったが、一次元量子ウォークの背後には無限二面体群の正則表現があり、そして量子ウォークは群環の特殊なユニタリ元であることを発見した。なお、この代数構造を応用して今野弱極限定理の別証明を与え、それを論文にしてある(Infinite Dimensional Analysis and Quantum Probability に掲載決定)。 次に宮崎直哉氏(慶應大学経済学部)、本間泰史氏(早稲田大学理工学術院)との共同研究において、3次元Heisenberg多様体と3次元レンズ空間上のパラメータを含む計量について種々のスピン構造から定まるDirac作用素のeta関数の特殊値ならびに留数を具体的に計算することに成功した。eta関数は Atiyah-Patodi-Singer により導入されたのち、位相幾何学的な立場をはじめ様々な方向から研究されている対象であるが、その特殊値の計算された例は数少ない。そこで上記の多様体に対して、eta関数の解析接続を具体的に与えることにより特殊値や留数を計算することに成功した。なお、そこにはEuler-Maclaurin公式が応用されており、ここでも凸多面体上の漸近解析で培った手法が生かされた研究となっている。
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