研究概要 |
KP階層は,ソリトン理論において最も重要な位置を占める非線形偏微分方程式系であり,自然数の重みの時間発展を持つ斉次な無限次元可積分系を与える。それに対して,UC階層(研究代表者 2004 Comm. Math. Phys.)は「KP階層の斉次性を保ったまま負の重みの無限変数を付け加えた拡張」ということができる。 平成23年度は,引き続き,UC階層とモノドロミー保存変形型の有限次元可積分系の関係について研究を行った。UC階層の持つ自然な相似対称性の固定点を考える簡約からある種のモノドロミー保存変形を記述する多項式ハミルトン系が得られた(津田照久 J. reine angew. Math.,inpress)。このハミルトン系の相空間は一般に複雑な代数多様体であるが,系の含む定数パラメタが特別な値の場合,時間発展で集合として不変な部分多様体を持つ。この部分多様体は,元の相空間の丁度半分の次元の複素射影空間で,実際,ガウスの超幾何函数のある一般化によって,この特殊解(リッカチ解)は具体的に記述されることが示せる(津田照久 Quart. J. Math.,inpress)。この特殊函数は,良く知られたガウスの超幾何函数の多変数化(アペル・ロリチェラのFD)と高階化(トマエの一般超幾何)を巧く補間するものであり,そのrigidityの証明や接続問題,特殊値の数論的研究等,新しい研究課題を提供することが期待される。このリッカチ解の近傍でのハミルトン系の解を調べることも興味深い。 また,この特殊解に付随するフックス型線形常微分方程式は,可約となっていて,その解(波動函数)は当該の超幾何函数に関係したスティルチェス測度による(コーシー核)積分表示を持つ。この事実は,直交多項式や有理函数近似の理論との繋がりを強く示唆するものであり,その研究は平成24年度も継続して行う予定である。
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