研究課題
平成21年度においては、数理生物学モデルの反応拡散方程式のひとつであるロトカ・ボルテラ系の研究に従事し、とかく、移流項がロトカ・ボルテラ系の定常解の構造に及ぼす非線形効果の数学的抽出に力を入れた。本年度の研究成果として、移流のひとつである相互拡散(cross-diffusion)を伴うロトカ・ボルテラ系において、定常解の高さや滑らかさが相互拡散の大きさには無関係に抑えられることが判明した。具体的には、ディレクレ境界条件の下で、任意の定常解の空間2階微分まで含めたアプリオリ評価が、相互拡散の大きさに依存しないことが証明された。相互拡散を伴うロトカ・ボルテラ系の定常解に対する既存のアプリオリ評価では、空間次元に対する制約が3以下であったのに対して、本年度の研究成果においては、競合系の場合では空間次元が5以下、被食者捕食者系の場合では空間次元4以下と空間次元に対する制約が緩和されている。定常解の高さや滑らかさが相互拡散に依存せずに抑えられることが保証されたことによって、相互拡散を無限大とした漸近解析も可能となった。本年度は「ディレクレ境界条件の下で競合系の共存定常解に対し相互拡散を無限大とした漸近解析」を施し、共存定常解の片方の成分が、相互拡散の大きさに反比例することが証明できた。この結果は生物学的な視点では、競合する2種の生物から成るコミュニティーにおいて、相互拡散効果を保持する生物種の方が生き残りやすいことを示唆している。上記の研究成果の内、被食者捕食者系の共存定常解に対するアプリオリ評価については、国際的な学術雑誌Nonlinear Analysisに掲載された。また、競合系の共存定常解に対するアプリオリ評価や相互拡散を増大させる漸近解析については、やはり国際的な学術雑誌Applicable Analysisに掲載予定である。
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