研究概要 |
本研究では、国内外のミリ波、サブミリ波望遠鏡を用いた観測により、太陽質量程度の原始星の形成領域の化学組成の特徴を明らかにし、それらが、原始星進化と惑星系形成において、どのように進化していくかを明らかにすることを目的としている。本年度は、(1)研究代表者自身が発見したWarm Carbon Chain Chemistry(WCCC)を示す原始星における炭素鎖分子の分布、(2)WCCCを示す原始星の周辺環境の探査、および、(3)より進化の進んだ原始星周りでの化学組成の研究を行った。まず、(1)については、PdBIミリ波干渉計のデータを解析して、原始星エンベロープの内側の温度が25Kを超える領域で、炭素鎖分子の存在量が急激に増加していることを突き止めた。WCCCではCH_4の蒸発で炭素鎖分子が作られると予想されるが、上記の25KはまさにCH_4の蒸発温度であり、その考えを支持している。また、炭素鎖分子の存在量は原始星近傍の500AU程度で少なくなるものの、中心領域までもたらされていることが明らかになった。一方、(2)については、おおかみ座のIRAS15398-3359の周囲に炭素鎖分子が異常に豊富な星なしコア(Lupus 1A)を発見した。この天体では、長い炭素鎖分子やその負イオン(C_6H,C_6H^-,C_8H,C_8H^-,HC_9Nなど)のスペクトル線が、若い星なしコアの代表であるTMC-1を凌ぐ強度で観測された。WCCC天体の近傍にこのような化学的に若い星なしコアが存在することは、WCCCが母体コアの速い収縮によって実現するという研究代表者の考えを支持している。さらに、(3)についても、野辺山45m望遠鏡やIRAM30m望遠鏡などを用いて、進化の進んだ原始星の化学組成を調べた。エンベロープとディスク成分の化学組成の切り分けがキーとなったが、高励起スペクトル線の観測が切り分けに有効であることがわかってきた。これは将来のALMAによる高分解能観測につながるシーズであり、本研究における重要な成果の一つと言える。
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