太陽フレアにおける粒子加速機構を解明するため、ドリフト運動論に基づいたブラソフシミュレーションコードを開発し、実行した。本年度は、前年度完成させたコードに新たにクーロン衝突によるピッチ角散乱の効果を加え、ピッチ角散乱の有無による粒子空間分布の違いを調べた。ピッチ角散乱を考慮しない場合は、あらゆるエネルギーの粒子密度が、同じ位置(太陽表面からの高度)でピークに達していた。これは、磁気ループの収縮にともなって、粒子が継続的に加速・捕捉された結果である。一方、ピッチ角散乱を考慮すると、粒子密度のピーク高度がエネルギーによって異なる結果が得られた。低エネルギー及び高エネルギー粒子は低高度に位置しているのに対し、中間エネルギー粒子は高高度に位置していた。これは、ピッチ角散乱時間・粒子が磁気ループを往復する時間・ループが収縮する時間、の3者のバランスによって、中間エネルギーの粒子が最も早くループから失われることにより、ループ収縮に伴う密度上昇を経験できず、結果高高度に位置していると解釈できた。 これまでの観測結果から、フレア軟X線ループの上空に硬X線源が存在することが知られている。最近、この硬X線源は、電波源より上空に位置していることも観測されている。本研究は、これらの観測結果を説明可能なモデルであり、太陽物理学における長年の未解決問題の一つである「フレアループ上空の硬X線源」の起源を明らかにした。以上の結果は、2011年5月10日発行のアストロフィジカルジャーナル誌に掲載された。
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