太陽フレアにおける粒子加速・輸送機構を解明するため、ドリフト運動論に基づいた数値計算コードを開発・実行した。(1)単純な磁気ループの元での粒子空間分布について、ピッチ角散乱に対する依存性を調べた。クーロン衝突によるピッチ角散乱が起こると、ピッチ角散乱時間、粒子が磁気ループを往復する時間、ループが収縮する時間の3者のバランスによって、粒子空間分布にエネルギー依存性が生じることを明らかにした。この結果は、フレア時に出現する磁気ループ上空の硬X線源の説明が可能である。本成果は、2011年5月10日発行のアストロフィジカルジャーナル誌で報告した。しかし、硬X線と電波の比較観測からは、本モデルで予測される傾向とは逆の傾向が得られた。後藤智子、2011年度修士論文、名古屋大学)。この観測結果は、クーロン衝突に代わる効率的な散乱過程が、特に高エネルギー電子に作用している可能性を示唆している。(2)成果(1)では、磁気ループの足元で観測される硬X線を放射する粒子を再現できなかった。この原因として、背景の磁場構造が考えられる。そこで、複雑な磁場配位の元での高エネルギー粒子空間分布について、磁気リコネクションの磁気流体シミュレーションとテスト粒子シミュレーションを組み合わせて調べた。磁気レイノルズ数が低い場合は、磁場配位が単純になり、成果(1)と同様の傾向が得られた。一方で、磁気レイノルズ数が高くなるにつれて磁場配位が複雑になり、成果(1)では見られなかった、磁力線平行方向の粒子流が見られた。粒子軌道の解析から、これは磁力線の形状変化に伴う粒子の第2断熱不変量の破れの結果であることがわかった。この粒子流は、磁力線に沿ってループ足元深くまで侵入できるため、足元での硬X線放射に寄与することが出来る。本成果は、AGU Fall meeting 2011にて口頭発表した。
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