本研究では、近年の太陽系外惑星の発見と原始惑星系円盤の分光観測の進展を背景に、(1)円盤内ダスト・ガス包括的かつ自己完結的な進化モデルの構築と(2)円盤ガス分子の化学的・分光学的特性やダスト粒子の光学特性を利用したモデルの観測的検証により、惑星形成過程及び系外惑星の多様性の起源解明を目指す。H22年度はまず、(A)星団中で近接する大質量星からの紫外線照射影響下にある円盤の面密度進化および光蒸発流とその電離を扱った一次元数値シミュレーションを行った。これにより、星の多くが形成される星団内において円盤ガスが外縁部より散逸することを明らかにし、天王星の様な氷惑星や残骸円盤の形成を促すことを示唆した。また、(B)ガス・ダスト間の摩擦力、すなわちダストの運動を制御する空隙率の成長の効果を取り入れたダスト成長・沈殿過程を数値計算に基づき調べ、さらにその光学特性および観測量への影響を議論した。その結果、波長10um付近に観測されているシリケイト・フィーチャーは、高空隙率ダストで再現可能であることを示した。これまでの円盤内ダスト進化の研究は主に空隙率のないダストを取り扱っていたが、本研究により、高空隙率ダスト進化を通じた惑星形成過程を再考する必要性が示された。一方で、(C)(1)円盤ガス中の有機分子組成形成に重要な役割を果たすダスト表面反応および(2)中心星へのガス降着、乱流拡散、円盤風などのガス流が円盤化学構造に及ぼす影響を調べた。その結果、(1)今年度初期運用を開始する大型ミリ波・サブミリ波干渉計ALMAを用いた分子輝線観測により内盤内のダスト表面反応が検証できる可能性を示唆し、また、(2)スピッツァー宇宙望遠鏡を用いた中間赤外線分子輝線観測の結果とモデル計算を比較し、円盤内の乱流拡散の存在を示した。これらの研究は、今後の分子輝線観測を用いた円盤物理・化学構造の検証のプロトタイプになると期待される。
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