恒星の形成母体である高密度ガス塊に付随する磁場構造を初めて明らかにするための大規模な観測を行った。恒星の形成メカニズムの解明は天文学の重要な未解決問題であり、星形成に本質的な役割を果たす物理量である磁場強度や磁力線の構造の大規模測定が待望されていた。世界最高性能の近赤外線偏光観測装置(SIRPOL)を開発したことにより、宇宙を漂う高密度ガス塊を貫く磁場を高精度かつ広域なマッピングが初めて可能になった。我々の観測により砂時計型に湾曲した磁力線に貫かれたガス塊の存在が明らかになった(査読付き論文1件目および学会発表)。(宇宙線により弱く電離した)物質に凍結した一様磁場が自己重力収縮により引きずられるとこのような湾曲構造ができる。追観測により砂時計形状の磁場構造の検出数は4天体にまで増え、この構造が普遍的に存在するらしいことが明らかになった。ガス塊の磁場エネルギーを重力エネルギーと比較したところ、いずれも重力が磁場を上回ること(磁気超臨界)が判明した。このことは重力収縮により砂時計磁場が形成されるという理論的示唆を支持する。発見した4天体の内の半数は恒星を伴わないガス塊である。これらは磁場を歪めながら収縮する途上の、星形成の極めて初期段階の天体だと考えられ、星形成の初期物理状態の解明において極めて重要なサンプルが本研究で得られた。磁場の歪み形状や空間スケールは過去に起こった収縮の履歴情報を持つ。磁場の重力湾曲を調べることで低密度分子ガス雲からどのように高密度ガス塊が産まれ、さらに恒星の形成へ向かうのかが調べられる。これを研究するには、ガス塊だけでなくその周辺領域までも含めた、これまで以上に広大な天域の磁場マッピングが必要になるため、データの蓄積と装置の優位性を武器に今後も観測を継続したい。本研究課題の採択は、初期成果の獲得と今後の研究展開において非常に重要なステップになった。
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