研究課題
クェーサー中心部に存在するブラックホールに角運動量をもったガスが降着すると、降着円盤が形成される。降着円盤から輻射圧や磁気遠心力などによって加速されたガスは角運動量を維持したまま系外に放出される。この際、周囲に「アウトフローガス」とよばれる特殊な構造をもったガスの流れが形成される。いまだに全貌が解明されていないアウトフローガスの幾何学的構造、および物理的・化学的諸性質を解明することが本研究課題の目的である。具体的な研究計画として、1)10m級望遠鏡で過去に取得されたアーカイブデータによるアウトフロー起源の吸収線モニター観測、2)近傍セイファート銀河に付随する吸収線の検出を目的とした新規観測提案(ハッブル宇宙望遠鏡(HST)による紫外高分散分光観測)、3)光電離モデルによるアウトフローガスの電離状態の解明、の3点を提案した。このうち、モニター観測については、線幅の大きい吸収線が明らかな時間変動を示すのに対し、線幅の小さい吸収線は数年程度の時間スケールでは極めて安定していることを明らかにした。線幅が異なる吸収線はアウトフローガスの異なる領域を起源としていることをほのめかす。HSTへの新規観測提案は本研究課題に対しては見送ることにしたが、関連する別の課題に対しては観測時間を獲得することに成功した。また、アウトフローガスの電離状態や金属量、クェーサー中心部からの距離については、比較的線幅の小さい吸収線に対して光電離モデルを適用することにより制限を加えることに成功し、論文として報告した(Wu et al.2010)。更に、当初は計画していなかった偏光分光観測もすばる望遠鏡を用いて行った。一部のクェーサー起源の吸収線にみられる時間変動の原因は、クェーサー近傍に存在する散乱物質とは無関係であり、光学的厚さが変動するシート状の高電離ガスに起因する可能性が高いことを突き止めて論文化した(Misawa et al.2010)。
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The Astrophysical Journal
巻: Vol.719 ページ: 1890-1895
巻: Vol.722 ページ: 997-1012