彗星は原始太陽系星雲中の微惑星そのものといってもよく、その塵は太陽系形成初期の情報を比較的よく保持していると予想される。そのため彗星塵中の結晶質鉱物は原始太陽系星雲中の温度環境を知るためにも重要な手がかりの一つである。今年度前半は、これまでにすばる望遠鏡で中間赤外線観測をおこなった彗星(オールト雲彗星・木星族彗星)のデータ収集と整約を行い、彗星塵熱放射モデルを用いた解析を進めた。これで研究課題の1年目として、彗星塵の鉱物組成・粒径分布に関してより詳細な解析を進める準備ができ、今後の原始太陽系星雲中での物質循環に関する研究を進める土台ができた。2007年10月にアウトバーストを起こした彗星17P/Holmesの中間赤外線観測の結果を共著として論文で公表し、彗星の形成領域と彗星核に含まれるケイ酸塩鉱物の結晶性についての理解をさらに深める手がかりを得ることができた。また、今年度中には、新たにすばる望遠鏡で22P/Kopff彗星を観測する機会を得たが、残念ながら天候が悪く、この彗星に関しては科学的な結果を導くためのデータを得ることはできなかった。一方で年度後半には、赤外線天文衛星「あかり」の近赤外線データによる彗星氷の分子組成の研究を本研究の中間赤外線での塵の観測と組み合わせることが、原始太陽系星雲の物質循環について明らかにするのに有用であるという新しい方向性を見いだすことができた。これに関しても今後検討を進め、さらに研究を深めていきたいと考えている。
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