超対称理論は標準理論(SM)を超える物理の最も有力な可能性の一つである。しかし現実の世界では超対称性は破れており、超対称粒子の質量スペクトラムなど、その現象論的帰結の多くは超対称性の破れの媒介機構に依存している。超対称性の破れの媒介機構はこれまで現象論的な要請から考察されることが多かったが、最近になって超弦理論の有効理論の考察からmiragemediationという新しいカテゴリーの媒介機構が注目されるようになった。本研究ではこのmirage mediationの概念の拡張やLHCにより判明した新たな実験事実に基づいたmirage mediationの現象論について研究を行った。その成果の主なものは、 1. Anomalous U(1)ゲージ対称性を持つ超弦理論の有効超重力理論において、Anomalous U(1)ゲージ場質量へのStueckelberg質量の寄与とFI項を相殺するために導入されたSM singletの真空期待値の寄与の相対的な比に応じて、低エネルギー有効理論でのflat directionがGreen-Schwarz(GS) modulusからSM singletに連続的に変化し、modulus mediationとanomaly mediationの組み合わせであるmirage mediationを含む様々な超対称性の破れの媒介機構の組み合わせが現れることが分かった。 2. Mirage mediationにおいて右巻きニュートリノを導入した最小超対称理論(MSSM)でレプトンフレーバーを破る過程μ→eγを考察し、右巻きニュートリノによる敷居補正によってUV insensitiveなanomaly mediationだけでなくmodulus mediationとanomaly mediationの混合項に存在するレプトンフレーバーの破れもほぼ相殺され、modulus mediationのレプトンフレーバーの破れの寄与だけが残ることが分かった。 3. Mirage mediationにおいてはmirage scaleをTeV近辺に設定する(TeV scale miragemediation)ことにより、電弱対称性の破れのスケールよりも一桁重い超対称粒子の質量を微調整無しに実現できることが知られている. LHCによる超対称粒子の質量下限の大幅な上昇とMSSMでの上限に近い質量の軽いヒッグス粒子の兆候が明らかになったことを踏まえ、mirage mediationにおいて微調整の基準を緩めて10 TeVスケールの超対称粒子の質量を実現した場合の現象論を考察し、ヒッグス質量と超対称粒子質量の関係を計算した。これによりLHCで超対称粒子が発見されなかった場合、将来の実験計画を立てる上でtanβの測定が非常に重要であることが明らかになった。 4. LHCによる前記のような状況を踏まえ、TeV scale mirage mediationにおいてMSSMに一重項場を導入したNMSSMを考察し、その電弱対称性の破れの構造と軽いヒッグス質量を調べた。これによりダウン型ヒッグス質量パラメータと有効μ項の相殺が起ることで、微調整を導入することなく有効μ項(ヒッグシーノ質量)を重く出来ることが分かった。また1TeV程度の超対称粒子でもNMSSMに典型的な偽真空やヒッグスのtachyonic modeを避けて125GeV程度の軽いヒッグス質量を実現可能であることを明らかにした。 となる。研究の途中でLHCの初期の解析が公表され、超対称粒子の質量が予想よりも重い兆候が明らかになったため、当初計画していた暗黒物質の過剰生成を解決する模型構築とそれに基づくLHCでの超対称粒子生成の数値シュミレーションから、miragemediationによる重い超対称粒子実現のシナリオの研究に重点を移した。成果2、3については現在研究を継続中であり、本研究の成果として出版する予定である。
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