スイスのジュネーブにあるヨーロッパ原子核研究機構(CERN)のCOMPASS実験では、核子内のスピン構造を調べるために大強度ハドロンビームと偏極陽子標的を用いた偏極ドレル・ヤン実験を計画している。その実験に対応できる偏極標的物質の開発を行うべく、新たな装置の構築、測定、最適化を行った。ハドロンビームを用いると標的内で生成される2次粒子が標的物質の温度上昇を招くため、偏極度の低下が問題となる。偏極効率を上げるためにドイツのボッフム大学の偏極システムを用いてNH_3に対しマイクロ波変調効果を調べたが、変調効果よりもマイクロ波の強度の調整が重要であることが分かった。そのため、実際の実験を想定して大強度マイクロ波を微調整できるようアッテネーターを取り付け、リモートコントロールシステムを構築した。また、陽子の偏極度測定時にバックグラウンドとして想定される標的物質を収めるホルダーを陽子フリーするために様々なテフロン材質の陽子含有率の測定を行い、最大で2%程度であることが分かり、偏極度測定誤差を最小限に抑えることができることが分かった。標的物質は、希釈冷凍機を用いて50mKに冷やされる。ハドロンビームにより希釈冷凍機の到達温度が上がるので、冷却能力を高めるべく、新たなポンプシステムを導入した。同時に偏極度校正時の温度をより安定にさせ、偏極度測定誤差を最小限にさせるために蒸留槽の温度を一定にするシステムを構築した。
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