スイスのジュネーブにあるヨーロッパ原子核研究機構(CERN)のCOMPASS実験では、核子内のスピン構造を調べるために大強度ハドロンビームと偏極陽子標的を用いた偏極ドレル・ヤン実験を計画している。偏極は、2.5Tのソレノイド磁石とその磁場に合わせたマイクロ波を用いて行い、ビーム軸に対して平行に偏極方向を揃える。偏極Drell-Yan実験ではビーム軸に垂直方向に揃えた偏極標的が必要なため、データ収集時には0.6Tのダイポール磁石を用いる。そのためデータ収集時には偏極させることができないため、偏極度の緩和時間の長い標的が必要となる。そのため過去の実験で使用されていた信用の高いNH_3を用いて動的偏極に必要な不対電子量をこれまでとは違う量で偏極度の緩和時間、到達最高偏極度とその上昇時間とを調べた。その結果通常の3割程度少ない不対電子濃度4×10^<19>/cm^3で0.6T、60mKにおける偏極度の緩和時間は、5000時間以上であった。これは、0.5Tで500時間という過去の結果と比べると10倍程度長く偏極ドレル・ヤン実験に対してとても有効である事が分かった。長い緩和時間と短い偏極上昇時間は相反するため、最高偏極度とその上昇時間を同時に調べた。その結果、不対電子濃度の違いに対して到達最高偏極度に違いは誤差の範囲(数%程度)であったが、上昇時間は、12時間と48時間と4倍長かった。緩和時間ほど違いが見られなかったのは、新たに導入したポンプシステムの最適化とマイクロ波照射の最適化を行った効果である。そして、週に1度予定されている加速器のメンテナンスに合わせて偏極させれば、データ収集に対してほとんど影響ないと考えられる。
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