研究概要 |
我々の時空がなぜ4次元で,宇宙ほどのように始まったのか,といった根源的な問に答えるためには,重力を含んだ4つの力全てを統一した理論を構成する必要がある.本研究においては,他の量子重力理論との対比も通じて,無矛盾な量子重力理論の非摂動論的かつ背景独立な定式化を目指すことを目的として研究を行った.特に,全ての量子重力理論に共通する一般的問題として,量子重力理論を構築しようとするとclosed time curveが現れてしまうという問題(CTC問題)が知られている.無矛盾な量子重力理論を構築するためには,CTC問題を回避することが必要不可欠である.この一つの方法が複素作用理論によるアプローチである.複素作用理論とは,通常の実数の作用を複素数にまで拡張した理論である.その解は一般には複素数であり,座標qや運動量pも複素数となり得る.ここでブラケット形式を使おうとすると,座標や運動量の演算子はエルミートであり,固有状態のブラやケットは実数のqやpに対してしか定義されていないという問題に直面する.これは,通常の実数作用の理論においても,トンネル効果やWKB近似などの際に直面する問題である.そこで,私は,Holger Bech Nielsen教授とともに,複素数のqやpを扱えるよう,ブラケット形式等の基礎的な定式化を行なった.具体的には,複素数のqやpを固有値に持つような非エルミートな演算子とその固有状態のブラ,および,ケットを2種類のコヒーレント状態を利用することなどにより新たに構成した.なお,この新しい演算子やブラおよびケットは実数のqやpに対しては,通常のエルミートな演算子やブラおよびケットとして振舞う.そのため,複素作用理論だけでなく通常の実数作用の理論においても,この拡張された演算子と固有状態を用いることを提唱した.
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