本年度は研究計画に従い、重力理論/ゲージ理論双対性の可解構造を用いて、次のようた強結合に於けるグルーオン散乱振幅の研究を行った。 1.3次元反ドジッター時空中の弦について、有限帯解と呼ばれる非常に大きたクラスの古典解を構成し、強結合散乱振幅を記述する光的多角形を境界に持つ解を系統的に探索した。このような解の構成は非常に困難であり、様々な試みにも拘らず具体的な表式は4点散乱に対応するもののみが知られていたが、我々は6点散乱のcollinear極限に対応する新たな厳密解を見いだした。 2.一般のn-点散乱振幅については、本年度のこの分野の進展により、対応する弦の古典解の具体的な表式を用いず、解に現れる或る係数(ストークス係数)の振る舞いから強結合振幅を求める方法が示されていた。我々は、3次元反ドジッター時空中の解について10、12点散乱の場合にこの方法を具体的に実行し、散乱振幅を記述する積分方程式を導いた。また、この結果や適当な極限に於ける考察により、n-点散乱の場合には散乱振幅を記述する積分方程式は、一般化されたパラフェルミオン共形場理論を摂動して得られる可解模型であるhomogeneous sinh-Gordon模型の熱力学的ベーテ仮説方程式であることを予想した。また、一般の5次元反ドジッター時空中の弦の解についても同様の予想を提出した。これらの予想は我々の論文とほぼ同時期に現れた別のグループの論文の結果を用いて、3次元反ドジッター時空の場合は完全に、5次元反ドジッター時空の場合は現在のところ部分的に確認されている。 これらの結果は或る可解模型と強結合散乱振幅の間の非常に興味深い関係を明らかにすると共に、強結合散乱振幅の解析に対する新たな道を開くものである。
|