近年、がん治療用小型重イオンシンクロトロンやミューオン冷却用小型蓄積リングなどの実現を目指して、円形加速器の小型化に期待が高まっている。これまでに、高磁場偏向電磁石や高勾配加速空洞など、各構成要素の研究が行われており、一定の成果が上がっている。しかしビーム入出射装置に対する要請は厳しく、従来の方式を用いる限りそれを克服することは困難であり、小型化の主要な障壁となっていた。 一般に、円形加速器にビームを入出射するためには、高速でパルス的に励磁されるキッカー電磁石が用いられる。このキッカー電磁石には、高速励磁応答特性に加えて、パルス電源との間で反射が起きないようにインピーダンス整合特性が要求される。このため、複雑な構造を持つ分布定数型キッカー電磁石が、これまでの半世紀にわたって世界中の大型円形加速器に広く適用されてきた。しかし、放電故障や、高精度な部品加工が必要になるなど、その複雑な構造に由来する多くの問題があった。 そこで研究代表者は、整合要素と集中定数型電磁石とを用いて、高周波分野でよく用いられるT架橋型回路網を構成すれば、複雑な構造にしなくても、原理的には完全なインピーダンス整合を実現しながら、分布定数型と同程度に高速な応答が期待できると考え、そのモデルシステムを構築して本方式の実証試験を行い、期待通りの性能が得られることをこれまでに確認している。 本研究は、この「完全整合型高速励磁方式」の性能を更に向上し、本方式を適用できる範囲をさらに広げて発展させることを目的としている。昨年度に引き続き本年度もシミュレーション計算を行って、パルス平坦化による応答特性向上の研究を行い、簡単な方法でパルス立ち上がり時間をより高速にする指針が得られた。内容の一部は国内特許として昨年出願しているが、本年度得られた改良策も今後出願する予定である。
|