本年度は最終年度で、交付申請書に記載した「ゲージ理論による弦理論の解析」に対して、発展的な研究を実施した。具体的には、これまではゲージ理論を用いて弦理論そのものを研究したが、今年度は、M理論を記述するゲージ理論に関する研究を行った。約15年前に、5つあった摂動論的な10次元弦理論が双対性によって一つの理論の異なる真空に同定され、さらに、特殊な強結合極限においては、11次元の理論になることが発見され、M理論と名付けられた。これを受けて、非摂動論的な弦理論の理解には、M理論の研究が必要だと広く認識された。このM理論は、空間2次元の広がりを持つ膜が基本的な励起だと思われ、AdS/CFT対応によれば、膜の枚数が大きくなると、自由度がその3/2乗で大きくなることが知られていた。弦理論のDブレーンが2乗の行列の自由度を持つことと比べると、その性質は非常に不思議に思われた、しかし残念ながら、それから長い間M理論の理解に対して大きな進展はなかった。近年、膜理論が超対称チャーン.サイモンズ理論で記述できることが提唱され、注目を集めた。その分配関数は局所化公式により有限次元の行列模型に帰着され、行列模型の解析から3/2乗の振る舞いが再現された。本研究は、この分配関数の計算をさらに推し進め、すべての摂動項を足し上げることに成功した。その結果、行列模型の分配関数は、エアリー関数で表示できることがわかった。エアリー関数は、三次式の積分表示がチャーン・サイモンズ理論を思い出させ、また、M理論の異なる文脈でも現れるので、M理論、チャーン・サイモンズ理論、エアリー関数の深いつながりを示唆している。さらに、ベネチアノ振幅の関数形から弦理論の共形対称性が発見された歴史を思い起こすと、分配関数の関数形からM理論の隠れた対称性が発見できるかもしれない。その意味で本研究はこれからの発展に広がりを与える可能性がある。
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