本研究は、将来の精密な観測との比較に耐えうる、有限質量のニュートリノ効果を考慮した非線形構造形成理論を徹底的に構築・整備することが目的である。本年度は、重力多体計算コードの実行や、データ解析方法の手法などを習得するとともに、この大規模な重力多体計算計算コードを検証するために必要な、球対称な密度揺らぎの重力崩壊に及ぼすニュートリノの効果を取り入れた計算コードの開発を行った。これは、ニュートリノの効果が入った大規模な重力計算の例は非常に少ないため妥当性を確かめるために重要な研究である。後者のコードはほぼ完成し、多体計算のチェックとして用いるだけでなく、今後は構造形成のスピードや、銀河団の数分布などへのニュートリノ質量効果の影響を定量的に調べる予定である。 ニュートリノ質量と宇宙磁場の相互関係についての研究も進めた。ニュートリノ質量は子田の密度揺らぎの大きさを小さくする効果を持つが、宇宙磁場は新たに密度揺らぎを生み出す効果があるため、同時に考慮する必要がある。線形理論の範囲で、二つの効果を同時に考慮し、最新の宇宙背景輻射温度揺らぎ、および大規模構造の観測データと比較することにより、宇宙磁場とニュートリノ質量への制限を同時に求めた。それにより、観測から許される宇宙磁場を最大限考慮すると、ニュートリノ質量に対する制限は、3世代合計で2.0eV程度まで緩和されることが明らかになった。この成果はPhysical Review D誌に掲載される。
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