研究課題/領域番号 |
21740179
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤 博之 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任講師 (50391719)
|
キーワード | 弦理論 / 結び目理論 / 位相的場の理論 / インスタントン / 体積予想 |
研究概要 |
本研究の目的は、境界を持つ弦理論の数理的側面を明らかにし、数学と物理学の双方にフィードバックをもたらすことにある。特に、本研究課題では、結び目や双曲幾何学を中心とした3次元虚何学と、ゲージ理論との関係を弦理論の枠組みで理解することで、新たな数学的研究領域を開拓し、同時に弦理論の非摂動的側面を明らかにしたいと考えている。研究所年度には、Dijkgraaf氏と共同でこうした側面に関する新たな予想を提唱し、結び目の量子不変量の新たな側面を開弦理論の枠組みを通じて理解するという研究を行い、次年度以降もこの理論の進展を探る方針で研究を遂行した。特に、本年度の大きな成果としては2つあり、一つはM理論の非摂動的定式化とされるABJM理論の分配関数に関する厳密解を求めたという成果と、もうひとつは、結び目のホモロジー的不変量に關する厳密解を求め、新たな体積予想の拡張を行ったということが挙げられる。前者に関しては、行列模型と位相的弦理論の関係から生じる「正則アノマリー方程式」の対数的振る舞いをする部分に関して、厳密解を求め、エアリ関数と呼ばれる特殊関数で表すことに成功した.大変興味深いのは、このエアリ関数の結果は、全く異なる理論によりM理論の分配関数の計算でも現れた結果であり、ABJM模型はその結果をある種第1原理から求めた事になり、M理論の非摂動的側面を具体的な形で解析することに成功したといえるだろう。M理論自身、その全容がいまだにつかめていない理論であるが、その中でこうした具体的かつユニバーサルな結果が、弦理論の数理的側面を活用することで得られたというのは、非常に意義深いものであると考えている。一方、後者の結び目不変量に関する研究では、昨年度Aganagic-Shakirovによって提唱された精密化されたChem-Simons理論を用いて、トーラス結び目に対し、対称表現の結び目不変量を厳密に計算した。この結果は、数学的には結び目の圏論的不変量と等価であり、これにより、圏論的手法では一般的な計算が困難な結び目不変量を物理的アプローチから決定することに成功した.さらに、この厳密解は、JQnes多項式と呼ばれる結び目不変量の自然な拡張になっている。そこで、この結果を基に、GukoV氏とSulkowski氏と共同で、Jones多項式に関する体積予想を、圏論的不変量に対して斬たな拡張を提唱し、「精密化され%体積予想」ど名付けた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、3次元ゲージ理論をキーワードに、ABJ廼行列模型の厳密解と精密化された結び目不変量の厳密解を求めることに成功し、大きな成果をもたらすことができた。さらに、年度末に行ったカリフォルニア工科大学での長期滞在では、これらの研究結果をにに、数理物理学的に面白い予想を提唱することができた。当初の計画では、この予想を出すにはさらに数年を要すると予想していたが、想像以上に研究が進展した。これまでの予想を超えて飛躍的に研究が進展したという背景には、海外のトップクラスの研究機関での積極的な議論が功を奏したと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は本研究課題の最終年度ということで、二れまでの研究の続合的理解とさらなる深化を目指す予定である.具体計画としては、結び目不変量の開弦理論を通じた物理的解析である。これまでの研究では、Dijkgraaf氏と共同で色付きJones多項式と呼ばれる結び目不変量の行列模型による記述とその背後にある可解構造や再帰欄係式を提唱した。一方で、昨年度末には、Gukov氏、SulkQwski氏と共同で、圏論的結び目不変量の漸近的振る舞いに関する研究を行い、refined volhme conjectureを提唱した。これら2つのテーマは「体積予想」で関連しており、本年度の研究では、これらの関係をさらに深く理解し、結び目不変量のさらなる数理物理的理解を目指す予定である。
|