本年度の研究では,弦理論に基づく結び目不変量の解析の研究を重点的に行い,興味深い成果が得られた.研究計画実施計画における主要な目標の一つとして,色付きJones多項式に関わる体積予想を,弦理論を通じてより深く理解し,さらにその一般化を考えることを掲げてきた.この目標に関して,本年度は特に弦理論の「精密化」と結び目不変量の「圏化」をテーマに研究を推進し,体積予想の一般化に関する研究を遂行する中で新たな結び目の不変量を発見し,それらに付随する結び目不変量の構造に関する予想を提唱するに至った.結び目不変量の圏化は,ここ10年ほど数学と物理学の両方の側面から研究がなされており,特に物理側では弦理論による定式化が大きなインパクトをもたらしている. ここ2年は,圏化の大元締めとなる色付きHOMFLYホモロジーの解析が飛躍的に進展し,従来では計算が困難であった非自明な結び目に対する解析が明確に行えるようになってきた.そこで,本年度の研究では,カリフォルニア工科大学のGukov教授とSulkowski研究員と共同で,様々なクラスの結び目に対する色付きHOFLYホモロジーの解析を行い,体積予想の「圏化」に対応する様々な結果を得る事が出来た.その中でも特に興味深い結果は,色付きHOMFLYホモロジーの漸近的振る舞いから定まる新たな結び目不変量として,我々は「超A-多項式」を提案し,様々な具体例に対してこの多項式を求める事に成功した.また,この超A-多項式は色付きHOFLYホモロジーの背後にある量子化積分構造と密接に関係しており,我々の研究ではこの超A-多項式の量子化から得られる色付きHOMFLYホモロジーの再帰関係式を様々な例に対して発見し,一般的にその関係式の存在を「量子超体積予想」として提案した.
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