世の中の構成要素である、陽子・中性子・中間子など、強い相互作用にしたがう原子核・ハドロンの系は、より基礎的な理論、量子色力学(QCD)によって支配されていることがわかっている。QCDは簡潔なラグランジアンで記述されるSU(3)非可換ゲージ理論であるが、そのダイナミクスはQCDの持つ強結合性により非常に複雑・多彩なものとなっている。現在においても、QCDのダイナミクスを解くことは容易ではなく、ハドロン物理のQCDからの理解はまだ発展途上といえる。申請者は強力な第一原理計算である、格子QCDモンテカルロ計算を用いて、ハドロン物理を直接QCDの観点から解明することを主眼に研究を行った。主眼としたのは、ハドロン間相互作用と(非可換ゲージ理論における)古典的ゲージ場の時間発展である。 ・古典的ゲージ場の時間発展:重イオン衝突において、クォーク・グルーオン・プラズマが生成された後、非常に短時間で熱化することが指摘されているが、このメカニズムを基礎理論であるQCDから理解すべく、研究を行った。古典ヤンミルズ理論の時間発展プロセスを追い、そのリアプノフ指数を調べた。その結果、ヤンミルズ理論の時間発展には異なった時間スケールが存在し、それらのスケールは、(時間平均的)リアプノフスペクトルの振る舞いによって、特徴付けられることを突き止めた。 ・SU(2)QCDにおけるハドロン間相互作用:陽子・中性子などのハドロン間相互作用は、遠・中距離は湯川秀樹により提唱された中間子論で記述されるが、近距離領域の相互作用は不明な点が多い。そこで、よりシンプルな理論であるSU(2)QCDを用いて、ハドロン間相互作用を検証した。その結果、中間子交換相互作用以外にも、遠距離領域でのユニバーサルなグルーオン的引力・近距離領域での斥力が存在することを突き止めた。特に、この斥力の振る舞いは、パウリ排他律とカラー磁気相互作用を起源とするシナリオと矛盾しないことを突き止めた。
|