本年度は主に以下の2つの課題に重点的に取り組んだ。 (1) 有限温度格子QCDにおけるスペクトル関数の空間サイズ依存性 私が以前に行ったクォーク伝搬関数の解析では、世界最大級の格子(最大64^3×16)を用いているにも関わらず、解析結果が格子の空間体積の変化に対し比較的強い依存性を持つことが明らかになった。同様な振る舞いは他の物理量の解析でも見られており、これまでの有限温度格子QCD計算で用いられてきた格子の空間体積が十分でないことを示唆している。そこで本研究では同様な解析を最大128^3×16の格子上で行った。この結果、空間体積依存性の収束性が見られることが確認できたほか、大きな格子を用いたメリットにより幾つかの新しい情報が得られた。 (2) 格子QCDによる、レプトン対および光子生成レートの解析 レプトン対および光子の生成レートは原子核衝突実験における直接的な観測量である。レプトン対生成レートの解析はすでに格子QCDで行われているが、実験で観測される単位不変質量あたりのそれは解析されておらず、実験との比較ができる段階には至っていない。本研究では、格子QCDで得られる虚時間相関関数から実時間スペクトル関数を引き出す手法である最大エントロピー法を有限運動量に適用すると共にエネルギー運動量の二次元的な情報を元に統計誤差を最小化する新しいアイディアをアルゴリズムに適用することで、従来よりも高い精度で有限運動量スペクトル関数を構築する。これにより、単位不変質量あたりの生成レートに加え光子スペクトルの解析が可能となり、実験と格子QCDをより直接的に比較できるようになる。この目的のため、今年度はゲージ配位の生成を行った。
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