研究概要 |
平成23年度は、主に、1,RHICのエネルギー走査実験におけるバリオン数ゆらぎの観測に関する理論的研究、2,有限温度格子QCDを用いた輸送係数の解析、3,有限温度格子QCDを用いたチャーモニウムスペクトルの有限運動量における振る舞いの解析、の3つの研究テーマに重点的に取り組んだ。1については、現在アメリカブルックヘブン国立研究所のRHICにおいて精力的に行われている重イオン衝突実験の衝突エネルギー依存性を調べる実験において、実験的には直接的な観測量ではないバリオン数ゆらぎを実験における直接的な観測可能量である陽子数ゆらぎのみから構築する理論的な枠組みを提案した。これにより、従来は不可能と思われていたバリオン数ゆらぎの実験的な決定が可能となり、RHICで得られる実験結果からQCDの有限温度・密度相構造を調べるための有力な手段が示された。2については、まず平衡状態におけるエネルギー運動量テンソルのゆらぎが相対論的流体方程式に現れる輸送係数の比と関連づけられることを量子統計力学と久保公式に基づいて示した。また、この議論において発生する接触項の問題について詳細に論じた。さらに、格子QCD上でエネルギー運動量テンソルの空間成分のゆらぎを直接的に測定することによりこれら輸送係数の比を決定した。3に関しては、解析を行うために必要なゲージ配位を生成し虚時間相関関数の測定を行い、最大エントロピー法でスペクトル関数を解析する段階まで研究を進めることができた。
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