研究概要 |
本年度は、我々の銀河系内にある超新星残骸やガンマ線天体の観測の理論的解釈の研究および、衝撃波粒子加速の理論的研究を行い、宇宙線加速機構に対する知見を得た。おもな成果は次の通りである。 1. 年齢2000年程度の若い超新星残骸RCW86を可視光とX線で観測し、衝撃波速度と衝撃波下流の温度を測定した。その結果、衝撃波下流の温度が単純な流体力学の予言よりも低いことがわかり、これは衝撃波エネルギーが宇宙線加速に使われている証拠であることがわかった。 2. PAMELA衛星によって発見された地球にふりそそぐ宇宙線陽電子の過剰の起源として、近傍の古い超新星残骸説を提唱し、同時に検証可能な予言を行った。 3. Fermi衛星によって超新星残骸W51C, W44, Cassiopea AのGeV帯域のガンマ線観測を行い、その放射スペクトルから、放射起源が陽子起源である可能性が高いことを示し、これらの超新星残骸で宇宙線核子成分の加速が起こっていることを明らかにした。 4. 超高エネルギーガンマ線未同定天体HESS J1731-347をX線帯域と電波で追観測し、年齢数万年の古い超新星残骸が対応天体の候補であることを指摘した。これにより、古い超新星残骸で核子宇宙線の加速が起こることを観測的に指摘した。 5. 被加速粒子の最高エネルギーが加速領域の逃走の効果によってきまるシナリオのもとで、加速領域を出た粒子の時間平均のエネルギースペクトルを理論的に計算した。その結果、宇宙線加速が効率よくおこる超新星残骸等では、得られるエネルギースペクトルは加速領域でのエネルギースペクトルそのものから異なる可能性があることを指摘した。
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