研究概要 |
高速回転ブラックホール付近で二粒子が衝突すると重心系エネルギーが無限に大きくなりうることがBanados,Silk and West(2009)によって指摘された。彼らは二粒子が赤道面上の測地線上を運動すると仮定した。我々は、赤道面上を離れても緯度がある値よりも低い場合には、こうした現象が起こりうることを示した(Harada and Kimura 2011b)。さらに、重力波反作用のために粒子の軌道が測地線からずれる効果の影響について考察し、粒子とブラックホールとの質量比が十分小さい場合には、影響は限定的であることを示した(Harada and Kimura 2011b)。この現象は、それが古典的に正しければ重力の量子論的効果が無視できなくなるため、本研究の目的に密接に関連しており大変重要である。 また、背景独立かつ非摂動論的量子重力理論の定式化として有望視されているループ量子重力理論の手法に基づいたループ量子宇宙論について、その量子化・とりわけ差分幅のとり方と演算子順序に潜む任意性に着目し、初期特異点回避可能性と大体積Wheeler-De Witt極限存在の観点から、これらの任意性を制限する可能性を指摘した(Tanaka, Amemiya, Shimano, Harada and Tamaki 2011)。これは量子重力における時空特異点の取り扱いに関する研究であり本研究において中心的な課題である。 さらに、インフレーション起源の0.1Hzの重力波に最適化した重力波観測衛星であるでDECIGO計画に関して、総説の著者の一人として参画した。(Kawamura et a1. 2010)インフレーション起源の重力波は曲がった時空上の場の理論的効果によって生成されるので、このような重力波の検出は量子重力の摂動論的効果の実験的検証につながるという点で本研究の目的に合致する。
|