研究概要 |
大余剰次元宇宙モデルでは,エネルギーがTeV程度になると高次元の影響が現れ,この効果によって大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の実験ではブラックホールが形成されることが期待されている。そこで,本研究では加速器実験の結果を用いて高次元時空の証拠をつかむだけでなく,さらにこれまで不可能だった超弦理論の直接的検証を目的として以下の研究を進めた。 今年度は基礎的な研究として,まずEinstein-Gauss-Bonnet-dilaton系での静的ブラックホール解の解析を行なった。この系は究極理論の最有力候補である超弦理論の有効理論で,いまだに困難なfull theoryでの解析の代わりに使われるものである。解の構成,時空構造,熱力学的な性質などを様々な次元とパラメータ空間で調べた。その結果,ある有限の大きさでブラックホール解が存在しなくなること,ブラックホールの温度が発散する場合があることが分かり,超弦理論特有の性質が明らかになった。その結果LHCで生成されるブラックホールの蒸発相での振る舞いから超弦理論の証拠が得られる可能性が出てきた。 また,静的な解のみでなく,動的なブラックホール形成の解析のために,ADM形式による定式化を行い,数値計算に載せる準備を行なった。これは超弦理論(有効理論)におけるブラックホール地平面形成相の解析の第一歩といえる。21年度の研究ではブレインの導入や初期値の求め方にまだ困難が見られるが,これらは次年度の研究で明らかにしていく予定である。
|