研究概要 |
本研究の目的は,弦理論を用いてごく初期の宇宙の状態やブラックホールの蒸発過程といった,重力系に量子効果が顕著に現れる現象について理解することである。弦理論からは高次元時空の存在可能性など非自明な示唆が多く得られているが,私達はその中でも「空間の量子化」に注目した。 弦理論では,物質とそれを取り巻く空間の両方が「弦」という1次元物体から成り立っているという結論が得られるため,弦の量子化が,物質と同時に空間の量子化についても自然な処方箋を与えると考えられる。また弦理論は,Dブレーンという高次元物体の存在も予言している。このDブレーンが取る配位の中には空間座標に非可換性を入れたゲージ理論で表現されるものがあり,こうしたことから,重力,つまり空間の歪みを量子化した場合,空間座標同士の非可換性が現れるのではないかと素朴には期待される。 私達はこれをモデル化するため,空間2次元・時間1次元で,空間座標同士に非可換性が入った重力模型を提案した。平成22年度には,この模型では通常の可換空間とは大きく異なり,スカラー曲率項を持たない宇宙項のみの重力理論でも非自明な解が存在することがわかった。 平成23年度にはこの研究をさらに押し進め,非可換スカラー場の理論.非可換重力理論の両方で,これまでに知られていなかったソリトン解を発見することができた。このソリトン解は,それまでに知られていたソリトン解が全て円対称性を持つのに対し,放射状に伸びたものなど,より一般的な形状を持っており,この成果を日本物理学会第67回年次大会にて発表した。現在この内容について論文を執筆中である。また,レーザー実験によってこのソリトン解と同様の形状を作ることができる可能性があり,目下この点についても研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
重力系における量子的効果について考察するという意味では,その現れの一つである非可換重力理論を用いて非自明な解を実際に構成できている。またそれらを,レーザー光を使った実験で検証するという方向の研究も既に始めている。しかしながら,弦の場の理論やDブレーンを用いて量子重力現象について知見を得るという点については,得られたソリトン解とDブレーンの対応付けがまだ不明瞭であるため,やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
実績の概要および現在までの達成度でも述べたように,重力に量子効果を取り入れた場合に現れると考えられる非自明なソリトン解をいくつか構成することにはすでに成功しているため,今後は微分項を取り入れた場合の解や,複数が重なったソリトン解の構成を通じ,より一般的な見地から量子効果について検証する。また,そうした量子重力の影響を実験で検証する際に,レーザー光のひとつの形態であるガウシアンビームを用いることが出来ることがわかってきたため,この点についても研究を進めていく。さらに先攻研究を参考にしつつ,非可換ソリトンとDブレーンとの関係を見いだし,弦理論の視点から量子重力現象を記述したいと考えている。
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