研究課題/領域番号 |
21740204
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
宇都野 穣 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (10343930)
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キーワード | 理論核物理 / 原子核構造 / 殻模型 / 殻構造 / 有効相互作用 / モンテカルロ殻模型 |
研究概要 |
テンソル力による殻進化描像によると、LS閉殻核ではスピン軌道分離エネルギーが大きく、jj閉殻核では小さくなることが予言される。これをpf殻にあてはめると、陽子がLS閉殻となるカルシウムでは、中性子のスピン軌道分離エネルギーが大きく、f_<5/2>軌道とg_<9/2>軌道が接近することが予想される。このことを実験で知られているエネルギー準位等から導くことを目的としたsd-pf-sdg殻模型を行った。有効相互作用として、前年度の研究で得られたsd-pf領域の殻模型相互作用をsd-pf-sdg殻領域へと拡張したものを用いた。g_<9/2>軌道の一粒子エネルギーをチタン51核の9/2^+の準位を再現するよう決め、中性子過剰カルシウム同位体の準位を系統的に殻模型計算した結果、カルシウム50、52核の3^-状態は従来考えられてきたような陽子の励起だけではなく、中性子がg_<9/2>軌道へ励起する寄与が重要であることを見つけた。それによって、これまで明確ではなかった中性子過剰カルシウム核におけるg_<9/2>軌道の位置が明らかとなり、f_<5/2>軌道とg_<9/2>軌道が近くにあることがわかった。このことは、中性子過剰核クロム領域で大きな変形が生じる現象と関係している可能性がある。 直接対角化不可能な系で精度良く殻模型計算を可能にするために開発されたモンテカルロ殻模型の計算手法的発展を行った。具体的には、最も計算負荷の高いハミルトニアン行列要素の計算法として、従来採用したリストベクトルによる計算法の代わりに、行列積を利用した計算法を提案した。いくつかの計算機で計算速度を計測した結果、新しい手法は計算機の理論性能の80%近くを引き出せる効率の良い手法であることがわかった。この手法は、モンテカルロ殻模型計算のみならず非直交スレーター行列式の行列要素全般に利用可能な汎用的手法であり、様々な応用が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)中性子数28領域の有効相互作用は完成し、そこからテンソル力に起因する殻構造変化の明らかな証拠を見つけたこと、(2)g_<9/2>軌道を入れた殻模型計算も遂行し、中性子の殻構造変化の手がかりを得たこと、(3)モンテカルロ殻模型を発展させ、カルシウム40核の閉殻構造の破れを議論できる段階になったことから、当初の期待通りに研究が進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
テンソル力の殻進化に対すう普遍性を確立するため、殻模型による中重核の殻構造研究に向かう。また、それを可能にするため、モンテカルロ殻模型の手法的発展をさらに推し進め、「京」などを用いた大規模計算を行う。
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