本研究では、不安定核励起状態の核磁気モーメントを測定し、中性子過剰領域における「Island of Inversion」と呼ばれる異常核構造の発現機構を明らかにすることを目的とする。 本年度は、「Island of Inversion」近傍核^<32>Alを対象として、寿命が200nsと比較的長いアイソマー励起状態の磁気モーメント測定実験を理化学研究所RIBF施設にて行った。本実験には前年度に開発した時間微分摂動角分布法(TD-PAD法)のためのガンマ線測定装置を使用した。本実験の意義は主に二つ挙げられる。高いスピン整列度のRIビームを生成するための新手法(分散整合二回散乱法)を開発すること、そしてその高スピン整列^<32>Al核に対してTD-PAD法によりアイソマー励起状態の磁気モーメントを測定すること、である。 本実験における分散整合二回散乱法では、第一次反応として一次ビーム^<48>Caから^<33>Alを生成した。第二次反応では、分散整合焦点面において一核子抜け反応により^<33>Alから^<32>Alを生成した。ここで分散整合条件を取ることによってスピン整列度を保持したまま運動量分散の再集約による効率的な収量増加を達成できる。この分散整合二回散乱法により、本実験ではおよそ8%のスピン整列度を持つ^<32>Alビームを生成することに成功した。本研究で開発した分散整合二回散乱法は、理研RIBF施設のBigRIPSビームラインの特性を最大限に有効利用したものであり、従来の一回散乱による不安定核生成では大きなスピン整列度を得ることができないような核図表のあらゆる領域に対して普遍的に有効な手法である。 本実験ではさらに、上記の分散整合二回散乱法によって生成したスピン整列^<32>Alに対してTD-PAD法を適用し、磁気モーメントを決定した。得られた値と理論値との比較を通じた「Island of Inversion」近傍における核構造の議論は現在進行中である。
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