量子重力の理論である超弦理論は、超高エネルギー(プランクスケール)の物理を記述する枠組であると期待されている。また、高エネルギーだけでなく、低エネルギーの物理にも重要な示唆を与えると考えられる。例えば、我々の宇宙がなぜ平坦かという問題には宇宙初期の量子重力が関わっており、また、ブラックホールに物体を落とした時にその情報が失われるか外部に戻ってくるかどうかという問題の解決には、ホライゾン近くの高エネルギー物理の理解が必要になる。当研究の目標は、(1)超弦理論が示唆する宇宙像の解明、(2)ブラックホールの情報問題への超弦理論からのアプローチ、の2点である。(1)に関して、近年、超弦理論には正の宇宙項を持った解(加速膨張宇宙)が多数存在することが明らかになり始めている。それらの解は準安定で、量子的トンネル効果により、より低い宇宙項を持った宇宙のバブルを生成する事により崩壊する。重力理論においては、準安定な真空は、バブルが無数に生成されるにも関わらず、膨張しているため存在し続ける、という「永久インフレーション」が起こる。私は、バブルの生成率に応じて、永久インフレーションに3種の相が存在する事を示した。これらの相は、バブルが準安定な真空の中でパーコレートする仕方によって分類される(Shenker教授、Susskind教授との共同研究)。また、超弦理論に存在する多数の場の量子効果を調べ、それらが宇宙背景輻射の温度揺らぎに重要な寄与をもたらす事を示した(羽原由修氏、川合光教授、二宮正夫教授との共同研究;論文投稿中)。(2)に関して、ブラックホールを記述する理論と考えられているマトリックス理論(行列の量子力学)を研究した。この理論の強結合極限における相関関数を、モンテカルロ・シミュレーションとゲージ重力対応の両面から調べ、中間状態の分布などを考察した(花田政範氏、西村淳准教授、米谷民明教授との共同研究;論文準備中)。
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