平成22年度は、平成21年度に設計・開発した実験装置を用い、九州シンクロトロン光研究センター(SAGA-LS)の255MeVリニアックからの電子ビームをシリコン結晶に照射し、パラメトリックX線とチャネリングの実験を開始した。 (i)電子ビームと結晶の相互作用研究において、ビームの質は重要である。そこで、Qスキャン法(4極電磁石の強さを変えていき、ビームサイズを測定する方法)を用いて、ビームのエミッタンスとツイスパラメータ(ビームの光学的関数)の評価を行った。エミッタンスは十分小さく、実験に適していることが確認された。 (ii)イメージングプレートを用いて、パラメトリックX線の角度分布の測定に成功した。本研究により、パラメトリックX線の簡易的な検出器として、イメージングプレートを使用できることが実証された。また、複数のパラメトリックX線の回折スポットを同時に検出することに世界ではじめて成功した。 (iii)結晶透過後の電子ビームのプロファイルを測定することにより、電子のチャネリング現象の観測に成功した。結晶の角度を回転させたときに、結晶の原子列のつくるポテンシャルによって電子ビームがガイドされ、偏向される様子が観測された。現在、ロシアのトムスク工科大学の理論グループとともに、シミュレーションを行っている。 チャネリング条件とパラメトリックX線の生成条件が同時に満たされたときに生成される回折チャネリング放射の世界初観測が最終目標であったが、研究期間内に達成することができなかった。前述したように、パラメトリックX線とチャネリングの実験手法は確立しており、今後数か月以内に、回折チャネリング放射の観測を試みる予定である。
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