平成21年度は広帯域・高分解能光散乱分光法を用いて、チタン酸ストロンチウムおよびタンタル酸カリウムにおける低周波数領域の光散乱スペクトルの温度依存性を測定した。スペクトルの解析には、非平衡度が高くなる低温領域においても適用可能な、非常に有用なスペクトル関数(動的構造因子)を非平衡熱力学から新たに導き、これを用いた。その結果、室温から6K程度までの広い温度範囲および1GHzから1000GHz以上の広い周波数範囲をカバーすることができた。チタン酸ストロンチウムにおいては30K程度で第二音波(温度の波動)が存在できることを再確認し、また、タンタル酸カリウムおいては(観測した散乱条件では)第二音波が定義できないながらも、「第二音波の窓」と呼ばれる条件は定義されることが新たにわかった。タンタル酸カリウムにおけるこの結果は、この物質においても散乱条件を変えることによって第二音波を観測できることを意味している。つまり、量子常誘電体であるチタン酸ストロンチウムおよびタンタル酸カリウムでは周波数範囲が約10倍程度異なるが、いずれも「温度の波動」である第二音波の媒質となり得ることがわかった。この「温度の波動」の周波数と波長は、可視光~近赤外域のパルスレーザー光による誘導ラマン過程によって人為的に誘起できる大きさであることを確認した。これらの成果に関してはPhysical Review B第80巻、記事番号165104にて報告した。
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