研究課題
InSb上の硫黄終端した試料では走査トンネル顕微鏡像が安定に得られなかったことから、InSb上に大気中で安定な表面二次元電子系を作成することが困難であることが分かった。そこで、実験手法の見直しを行い、次の2つの実験に着手した。一つ目は、大気中でも電気的に安定な2次元層を持つMoS_2の単一層上における走査トンネル顕微鏡を用いた測定。二つ目は、GaAs/AlGaAsヘテロ構造中の二次元電子系に原子間力顕微鏡測定を組み合わせ、探針から二次元電子ガスに局所電界を印加しながら抵抗測定を行う、いわゆる走査ゲート顕微鏡(SGM)測定である。前者に関しては、多層構造のMoS_2を10層程度まで薄くし室温でSTM観察をすることに成功した。これらの成果により、単層MoS_2を作成し低温・強磁場STM測定を行うための基礎技術を習得したと言える。後者に関しては、希釈冷凍機中に原子間力顕微鏡を組み込み、約100mKの極低温、8Tの強磁場下で、核スピン偏極が生じる量子ホール効果のブレークダウン領域でのSGMマッピングに成功した。現在のところ核スピン偏極に起因する顕著なイメージの変化を得るまでには至っていないが、本年度行った走査ゲート顕微鏡技術の確立は、今後量子ホール状態での核スピン偏極およびその観察の実現につながる大きな成果といえる。また、過去に行った表面二次元電子系を用いた走査トンネル分光の実験結果から、量子ホール状態の状態密度の空間パターンの解析も行った。その結果、特に高次のランダウレベルにおいて、実空間での局所状態密度は複雑なパターンを形成するが、フーリエ変換することにより波数空間ではn次のランダウレベルにおいてn個の極小値が磁気長の逆数程度の決まった波数で現れる事が分かった。これらの結果から、局所的な核スピン偏極またはその観測において必要なスピン分離ランダウレベルの状態がどのように空間的に分布するかを明らかにした。
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Journal of Physics : Conference Series
巻: 334 ページ: 012008-1-012008-6